進撃の巨人 感想・考察① ~最終回 作者はとんでもねぇやり方で読者を裏切ってきた~

諫山先生「読者を楽しませたい」「読者を裏切りたい」「読者を傷つけたい」

 

これは大成功だったのではないかと思う。

 

最終回を読んだあと、もう一度まっさらな気持ちでこの作品を受け取める努力をしたら

主人公エレンは本物の化け物で、エレンを化け物にしたのは他でもない諫山先生で、最後にそれをドカンした先生はすげぇ悪魔で、進撃の巨人はやっぱり読者を傷つける漫画だったと思う。

 

そういう漫画がダメとは言わないし、先生がずっとそれを望んで描いてきたなら「計画通り」だろうし。

 

個人的にはすっごいワクワクした!っていうのも事実で、怖い物見たさもあり、謎が気になることもあり、「途中で止める」という選択肢はなかった。誤解のないように言い続けるけど、進撃は傑作だと思ってる。好きか嫌いかと聞かれたら大好き

 

進撃の巨人』には考察の観点が山のようにあるけど、エレンについては、読者や作中の仲間達が信じ続けてきた主人公は本当に「化け物」で、先生自身がそれを最初から望んで描いていたと理解している。

 

エレンは「自由」に取り憑かれた化け物で、物語の中で踊らせれていた1番の奴隷!

 

ってカミングアウトされたのが最終回だった。

読者をより深く傷つけるために(読者にとって「傷つく」と「楽しい」が紙一重なほど麻痺しているのも事実)、エレンを信じて応援したくなるようなすっげぇ手の込んだストーリーを読まされ続けてきたように思う。

 

個人的には「人種差別」とか「戦争(虐殺)」とか、扱ってるようで扱ってないように感じる(これについては「扱いきれなかった」という見方もできる)。先生は差別や戦争の悲惨さを伝える気持ちはあっただろうし、ガビとサヤの対話によってこの手の「方向性」は示していたけど、あの戦いを「止める」気持ちは全くなかった。地ならしに到達したいがために、戦争回避の道とそれを訴える人たちを物語から容赦なく排除していったのは諫山先生本人だった(島内vs島外や、兵団組織vs調査兵団vsイェーガー派・義勇兵などの対立は、「お互いに相手の考えを受け入れられない」「解決できない」という結論ありきで展開されていた。人間同士を残酷に殺し合わせ続けた)。

「人種差別」や「戦争」は、最終的にはエレンが化け物だったってことを視覚的にも状況的にもわかりやすく印象づけ得るために仕掛けられた物語上の「設定」であり、罠であったのかなと(罠が高性能すぎて一つ一つ取り除くのにとんでもなく時間と労力をかけさせられ、またそれに命がけで挑む仲間たちの葛藤や成長があまりにも残酷で魅力的だったが故に、主人公の化け物性から意識をそらされ続けてた)。

 

リヴァイ。

「俺には分かる こいつは本物の化け物だ 巨人の力とは無関係にな どんなに力で押さえようとも どんな檻に閉じ込めようとも こいつの意識を服従させることは 誰にもできない」(19話「噛みつく」)

 

余談だけど、リヴァイは「強い」って言われ続けてきたけど、戦闘力よりも精神力が人類最強だった。そして終盤は「強い」よりも「優しい」だった。まぁこれについてはまた別の機会に(書かないかもしれない)。

 

確かに諫山先生は初期の頃からエレンのぶっ飛んだ言動をちょくちょく描いていたけど。周りの仲間がどんどん「成長」していくのに、エレンだけ「生まれたときから」変わってないというのは、マーレ潜入時にミカサだけがかろうじて察していたのか…いないのか(123話「島の悪魔」)。全ては「自由」のためにって…。最終回でのあのヘタレっぷりは最高ではあったけど、あれだけ母の愛に包まれ、仲間への想いがあっても、エレンはとにかく何より「自由」を求め続けた。頭では理解できても、共感はできないな~。

 

エレンの周りの奴らがものっすごい「人間」らしくて、人間の強さと弱さ、優しさ、愛情、責任、使命、夢、希望、絶望、憎悪や憎しみ、その先にある赦しなど、いろんなものが渦巻く中で、一人一人がもがきながら吐き出す言葉や行動に、感動したり涙したりし続けてきた。

ただエレンは一貫して「自由に取り憑かれた化け物」だったのかと思うと、1巻から読み直してみても「おまいう……。」

 

作者は悪魔だけど天才で、1周回ってやっぱり傑作だろ!というスタンスに戻ってきた(読み終わり「エレン!!(泣)感動!!!!」 →→→ 中期「んんんん…??」→→→ 現在「やっぱりすげぇぇ!!!!」)。笑えるほどに「諫山先生は諫山先生だった」というか…。

先生は、戦争や虐殺、地ならしという慈悲なき大虐殺を描くことで訴えたいことがあったんだろうけど、それは「肯定している」からではなくて、単純に読者に地獄を見せたかったからだと思ってる。「仕方無いでしょ? 世界は残酷なんだから」

この作品が傑作なのは、エレンを除く104期調査兵団調査兵団の先輩方の生き様が(「弱い」部分や「間違った」も含めて)「正統派」だったからだな。いや、エレンの名言もたくさんあったし、エレンは素直で真っ直ぐな子だったんだけど、最終回を読んだあとだと「おまいう……。」

あとは最終回までのストーリー設定と構成がやっぱりすごかった。

 

諫山先生「読者を楽しませたい」「読者を裏切りたい」「読者を傷つけたい」

 

今回はここまで。